架空送電線入門

自転車による体脂肪燃焼に繋がりそうな趣味を広げようと挑戦した「撮り鉄入門」はあっけなく失敗したので、次は「架空送電線入門」に挑戦してみます。

  • 架空送電線とは、簡単にいうと高圧送電線のこと
  • 業界では「がくう」、学会では「かくう」と読むらしい。どちらの読み方も正しい。
多古に集まる架空送電線

なぜ興味を持ったかというと、多古のあたりに架空送電線が妙に集まってきている場所があり、その理由を知りたいのと、ネロンガ(※1)の次なる出現場所を突き止めたいため。

*1:1966年頃、ネロンガが生息していた「伊和見山の古井戸」とは、実際は小田原城内の古井戸だった。フジ隊員とホシノ君によりこれを確認。なお、最近ネロンガは群馬県の中之条町に移住したらしく、小田原市はネロンガの定住促進に失敗した模様。

■架空送電線の基礎を勉強してみる

参考文献

撮り鉄同様、この道にもすごい皆さんがいました。皆さんに敬意を表し、まず最初に参考文献をご紹介します。

  • 塔マップZERO :日本全国の発電所や変電所の場所をGoogleMap上にプロットするとともに、架空送電線のルートを表示している。これはネロンガと仮想敵国に知られるとまずい情報なので秘密!
  • 北陸鉄塔ファンWEB版 :石川・富山・福井を中心に鉄塔・送電線・変電所探訪を楽しむ情報を発信。
  • 架空送電線の話 :架空送電線の歴史や技術をわかりやすく解説。

それにしても、郵便ポストの所在地を地図上にまとめた「地図で検索|ポストマップ」とか、今回お世話になった「塔マップZERO」とか、IT系マニアの作品はすごいですね。

送電方式

三相交流方式で送電するのが一般的(一部直流送電もあり)。

三相交流方式は、位相が120°ずつズレた3つの交流を3本の電線で送電できる。一般家庭で使用している単相交流の場合は戻りの電線が必要なので、3つの交流を送るには6本の電線が必要。

三相交流方式であるため、架空送電線は電線3本で1組=1回線となる。

送電電圧

公称電圧(kV) :22、33、66/77、110、154/187、220/275、500、1000

架空送電線専門分野では170kV以上を「超高圧」、1000kV送電線のことを特に「超超高圧:UHV (Ultra High Voltage)」と呼んでいる。

東京電力の場合、66-154-275-500-1,000kVを採用。(小田原周辺は66kVが多い模様。1,000kV送電線は既に建設されているが、現在は500kVで運用されているとのこと。)このほか、小田原周辺にはJRの77kVの架空送電線も走っている。

  • 送電電圧の公称値は三相交流の相間(=電線間)の電圧であり、電線と大地(鉄塔)間の電圧は相間(=電線間)の電圧の1/√3。
  • 送電電圧は高い方が効率的に有利。
  • 送電電圧が高くなるにつれて、鉄塔や導体、ガイシなどの送電設備が大掛かりになる。(プロはガイシを見れば電圧がわかる)
導体(電線)の方式

送電電圧が高くなると、コロナ放電による送電ロスへの対策が必要になる。架空送電線の分野では、導体(電線)を太くしてコロナ放電抑制対応することが困難なため、導体本数を増やすことで対応。

  • 単導体(1本):主に154kV以下
  • 複導体(2本):主に275kV以下
  • 4導体:500kV設計
  • 8導体:1000kV設計
日本の歴史
  • 明治32年(1899年) 11kV沼上線 :安積疏水(あさかそすい)を利用した沼上発電所(300KW)~郡山絹糸紡績・細沼変電所間(24Km)に建設
  • 明治32年(1899年) 11kV黒瀬川広島線 :広島水力電気により、黒瀬川発電所(750KW)~広島変電所間(26Km)に建設
鉄塔

いろいろな形状の鉄塔を鑑賞する方たちにとって、小説「鉄塔 武蔵野線」というのがバイブルになっているらしい。鉄塔の形式によって、「男鉄塔」、「女鉄塔」、「ジャミラ鉄塔」、「ドラキュラ鉄塔」などとの通称で呼ばれているそう。沼が相当深そうなので、この領域には立ち入らないことにする。

全ての鉄塔には固有の識別名称が付与されており、鉄塔に取り付けられた名板により一般人も知ることができる。これは架空送電線を追うために重要な情報。

大きすぎて近くに寄るとフレームに収まらない

鉄塔番号送電線名

鉄塔にプレートがついている。送電線系統の最上流を1番として、下流に向け昇べきにナンバリングされている。

これにより、鉄塔番号を確認することで、送電方向がわかる。

フェンス越しの撮影もピントが合わない

足の下の方に送電線の系統名を示すプレートがついている。

なお1つの鉄塔で複数の送電線の系統を構成する場合は、複数のプレートがついている。

鉄塔全体を眺めるのはこのくらい離れたほうがいい

航空法による航空障害対策

60m以上の高さの鉄塔は、航空障害対策として赤白の塗装が義務けられます。

注)民間機はこんな低高度は飛びませんが、戦勝国である米軍の軍用機は、小田原の海岸線をかなり低い高度で頻繁に飛行します。あの高度で多古の内陸まで入ってきたら、電線や鉄塔に接触する可能性は十分にあります。

架空地線
詳細な構造を見るには近づいてズーム撮影

鉄塔の最上部に、ガイシを介さず直接鉄塔の鋼材に繋がっている電線で、避雷針の役割をするもの。

よく見ると、架空地線のない送電線もあるような。。。架空地線を張り忘れているはずはないので、なんか別な対策とか、設置基準があるのでしょう。

発電所と変電所(今回は簡単にまとめます)
  • 発電所 :ご近所には、早川水系の塔ノ沢、三枚橋および山崎の水力発電所等が、酒匂川水系の山北、内山および福沢第一/第二の水力発電所等があります。ここでは一部を簡単に写真で紹介します。
三枚橋発電所(導水管)
山崎発電所(たぶん水車建屋)
福沢第一発電所(昭和9年(1931年)運用開始)
福沢第二発電所(昭和9年(1931年)運用開始)
  • 変電所 :超高圧500kVから家庭用の200Vや電柱用の6.6kVに、段階的に電圧を落とすため、1次変電所・2次変電所・配電用変電所がある。(工場などには高圧のまま引き込む場合もある)
    変電所には架空送電線もしくは地中送電線が接続され、門(ゲート)の部分に送電線経路名(=変電所名)が記されていることが多い。
西相模変電所
西相模変電所
ご近所の足柄変電所
ご近所の新玉変電所

足柄変電所には「足柄線(1導体 66kV 2回線)」が引き込まれていますが、新玉変電所には高圧鉄塔はありませんので地下送電線による引き込みのようです。

■現地調査してみる

PC作業していても体脂肪は減らないので、とりあえず外に出掛けましょう。2022.12.18•••日本全国かなり寒いです。

丹沢の雪景色

丹沢山系もある標高を境に積雪と降雨がきっちり別れてます。箱根駒ヶ岳も頂上付近は雪景色なので、だいたい標高1000mあたりが雨と雪の境目だったようです。

ずっと気になっていた多古付近の架空送電線の密集具合

まずは見通しの良い、多古しらさぎ会館横の狩川管理橋から360°のパノラマ撮影を行って見ました。

東側
西側(橋の正面が多古から久野への高台)

この写真でうまく伝わるか分からないのですが、感覚的に言って高圧送電線と鉄塔(架空送電線)の数が異常に多く感じます。多いだけでなく、ここから西にある多古〜久野の高台に向かって集まっているようです。

架空送電線を頼りに先を追っていくと、多古の玉宝寺付近に集まってきます。

狩川管理橋から玉宝寺方向を見る
近づいて、玉宝寺から久野の高台を見る

改めて見ると、小田急線を通すため、五百羅漢の霊場につながる稜線を、大胆にバッサリと切り通しにしている。切り通しの上の高台にあるお宅、とても眺めが良さそうなお家で羨ましい。

切り通しの上の高台に登ってみる

多古変電所の横からまっすぐ登ると120‰を超える激坂ですが、新興住宅地のつずら折りの道を登ると75‰程度になり余裕です。この登坂ルートを見つけたのは世紀の大発見で、久野の台地の偵察がとても楽になりそう。

なお、上の写真からすると、向こう側の斜面をジグザグ登ってくる感じです。日光いろは坂を考えた人は偉い。

高台に登ると、鉄塔をほぼ真下から見上げられるので、とても迫力があります。この付近のお宅は、高台に住んでいても、これなら落雷の心配はないでしょう。

高台から西方向に続く鉄塔

双方の鉄塔とも、2回線(電線3本x2組)が地下ケーブルに接続されている。このすぐ南側に多古変電所があるので、地中送電ケーブルで繋がっている?

フェンスがあるのでもちろん手は届かないが、カーボン製の磯釣竿なら届きそうな位置に高圧送電線がある。

この2つが東京電力パワーグリッドの安全啓発キャラクターのよう。

狩川〜酒匂川を斜めに越えるロングスパンな架空送電線

狩川右岸の小田原アスコン 前田道路から、酒匂川左岸の神奈川県内広域水道企業団 飯泉取水管理事務所付近まで、600m近い長いスパンで送電線を渡しています。

台風など風の強い日に、どんな状況なのか見て見たい。

以前から気になっていた電線に取り付けられた物体は、風による電線の揺れ対策や、着氷による捻れ対策の錘(カウンターウェイト)のよう。(Ref. 架空送電線の話架空送電線の調査・設計

早川にある変わった鉄塔

南側は石垣山から架空送電線が降りてくる。北側には架空送電線はなく地上に引き込まれている。この鉄塔の番号は早川7、南側の鉄塔は早川6なので、送電の流れは南の山から降りて来て、ここから地中送電になる方向。一般に系統名は接続先の名称とのことなので、これが早川変電所に地下の送電ケーブルで接続されている?

この鉄塔は、力のかかり方がアンバランスなので、特殊な構造の模様。

なお、1984年の地図を見ると、早川7の北側にも架空送電線が延びているように書かれている。この方向だと早川変電所には繋がらない。

■考察:多古付近に架空送電線が密集する理由

(考察1)現在、エリア基幹の変電所となっている西相模変電所(南足柄市三竹)ができる前は、多古の変電所がエリアの中心的な変電所であった。考察の根拠は;

  • 1952年の航空写真を見比べると、西相模変電所は建設前だが、多古変電所はすでに建設されている。
  • 西相模変電所の完成以降も、多古変電所の裏山(久野の高台)を分岐点として、西相模変電所から各変電所や需要家への送電ルートが整備された。
  • 多古変電所は、市内の足柄変電所他と比較し、規模がかなり大きい。かつての基幹の変電所であった可能性が高い。

このため、多古の周辺には架空送電線や鉄塔が集中している。

1952年の西相模変電所建設予定地(南足柄市三竹)
1952年の多古変電所の様子

(考察2)東京電力送電網のほかに、JRの送電網が清水新田付近から狩川沿いにあり、扇町しらさぎ広場付近で分岐/通過している。東電とJR双方の送電網が多古あたりで重なっているため、架空送電線や鉄塔が集中している。

なお、東海旅客鉄道株式会社 西相模変電所(南足柄市岩原2)は、東電の西相模変電所に隣接しており、これも架空送電線や鉄塔が同様なエリアに集中している理由の一つ。

(第1話は一旦終わり、この後の展開は検討中)