ご近所の火山のお勉強

■初めに

日本の活火山(概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山) :111ヶ所
 ┗ (このうち)常時観測対象の火山 :50ヶ所
  ┗ (このうち)小田原から観測可能な火山 :富士山、箱根山、伊豆東部火山群及び伊豆大島の4ヶ所

(出典:気象庁「活火山とは」

ご近所に日本国内の4/50の常時観測対象の火山があるので、事前に勉強し、もしもの時の観測体制を整えておく必要がありそう。

■位置関係と距離の確認

Kanatec本社ビルからの位置関係と距離

結構、富士山が近い。小田原〜城ヶ島(約44km)より近いんですよね。最新の富士山ハザードマップの想定火口域で小田原に一番近いのは御殿場市側の南東斜面(太郎坊付近)で、距離はなんと34km(=小田原〜大船位)です。

最新の富士山ハザードマップより(赤いエリアが想定火口域)

■火山の基礎

各種資料を読みこなせるよう、まずは基礎を学びましょう。

(1)噴火の様式

マグマ噴火

a. ハワイ式噴火(伊豆大島など)

マグマの粘性も低く、爆発を伴わず、高温のマグマが比較的ゆっくり流れ出る。比較的安全でマグマをすぐ間近で確認することが出来、観光スポットになる事が多い。

b. ストロンボリ噴火(伊豆大島など)

粘性の低いマグマによってもたらされる爆発を伴う噴火。
比較的小規模だが、噴石や火山弾は高度数千メートルに達する事もあり、長期間にわたり断続的に続く事が多く、スコリア丘と呼ばれる円錐台の地形を形成。

c. ブルカノ噴火(桜島など)

粘性の高いマグマによって引き起こされる爆発的な噴火で、日本で多く見られるマグマ式噴火のタイプ。

d.プリニー噴火(富士山宝永大噴火など)

最も広範囲に被害を及ぼす噴火のタイプで、噴煙は高度5万メートルの成層圏まで及ぶ事もあり、周辺地域のみならず地球環境を一変させる恐れあり。

②水蒸気噴火(箱根大涌谷など)

火山内部の水とマグマが触れることなく、間接的に温められることにより火山内部の圧力が高まり火口近くの地表面が噴き上げられる噴火。
広範囲に被害が及ぶ事がない比較的小さな噴火ではあるが、前兆がわかりにくいく、噴火口から距離が近いと火山弾によって命を落とすこともある。

③マグマ水蒸気噴火(手石海丘海底火山など)

地下のマグマが火山内部の水と直接的に触れる事により引き起こされる噴火。
水蒸気噴火とは違い、マグマ片が火口から噴出されるのが特徴的。

(2)溶岩の種類

化学組成苦鉄質珪長質
岩石の名称玄武岩安山岩デイサイト、流紋岩
二酸化珪素の量少ない 45%多い 75%
岩石の色黒っぽい白っぽい
噴出時の粘性小さい(流れやすい)大きい(流れにくい)
噴火様式非爆発的(溶岩流れ出し)爆発的
噴出物溶岩火砕物、溶岩火砕物、溶岩
溶岩流速く薄く広がる流れにくく厚く溜まる流れない
火山の形楯状火山成層火山溶岩円頂丘
火山の例伊豆大島浅間山、桜島有珠山、雲仙岳

(3)火山災害

溶岩流

溶けた岩石が地表を流れ下る現象。
流下速度は地形や溶岩の温度・組成によるが、比較的ゆっくり流れるので徒歩避難が可能な場合もある。

大きな噴石

噴石のうち、概ね20~30cm以上の風の影響をほとんど受けずに弾道を描いて飛散するもの。
避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高い。

小さな噴石・火山灰

噴石のうち、直径数cm程度の風の影響を受けて遠方まで流されて降るもの。
噴火によって火口から放出される固形物のうち、比較的細かいもの(直径2mm未満)を火山灰という。

火山ガス

火山活動により地表に噴出する高温のガスのこと。
噴火によって溶岩や破片状の固体物質などの火山噴出物と一体となって噴出するものを含み、「噴気」ともいう。
水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分とする。
火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒等を発生する可能性がある。

火砕流

噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象。
火砕流の速度は時速百km以上、温度は数百℃に達することもあり、破壊力が大きく、重要な災害要因となりえるため、噴火警報等を活用した事前の避難が必要。

火砕サージ

火砕流の一種で、火山ガスを主体とする希薄な流れのこと。流動性が高く、高速で流れ、尾根を乗り越えて流れることがある。

ベースサージ

火砕サージの一種で、マグマ水蒸気噴火により発生する噴煙から側方に高速で広がる希薄な流れのこと。

火山泥流・土石流

火山において火山噴出物と水が混合して地表を流れる現象を火山泥流といいます。火山噴出物が雪や氷河を溶かす、火砕物が水域に流入する、火口湖があふれ出す、火口からの熱水あふれ出し、降雨による火山噴出物の流動、などを原因として発生。流速は時速数十kmに達することがある。

水と土砂が混合して流下する現象を土石流といい、流速は時速数十kmに達することがある。噴火が終息した後も継続することがある。

融雪型火山泥流

火山活動によって火山を覆う雪や氷が融かされることで発生し、火山噴出物と水が混合して地表を流れる現象。
流速は時速数十kmに達することがあり、谷筋や沢沿いを遠方まで流下することがある。

山体崩壊

火山の噴火により山自体が崩れ落ちること。
火山はさまざまな性質を持つ溶岩や軽石等の噴火時に噴出した物体で構成されており、内部は基本的に不安定な構造をしている。 火山の山体は地震や噴火によって崩壊しやすく、大規模な岩屑なだれや土石流を発生させる。

■最近の噴火

「概ね過去1万年以内に噴火」していると活火山との定義になりますが、有史以降の大きな噴火を中心にまとめてみます。

(1)富士山(Ref. 気象庁Web

宝永火口(熱函道路 函南側から望む)

864~866(貞観6~7)年

噴火場所は北西山腹。長尾山付近から溶岩流出(青木ケ原溶岩)、北西に流れたものは本栖湖に達し、また「せのうみ」を精進湖及び西湖に二分、北東に流れたものは吉田付近に達する。

937、999、1033、1083、1435/1436、1511年

噴火場所は北山腹で、小規模が噴火複数回発生スコリア降下、溶岩流。

1707(宝永4)年

2月16日大規模噴火、軽石・スコリア降下。
噴火場所は南東山腹(宝永火口)初期はデイサイト、その後玄武岩のプリニー式噴火。

余談:富士山噴火に関する予言
1983年9月(富士山大爆発 元気象庁職員? 相楽正俊著)
201X年(「噴火の目」で予知する富士山噴火のXデー 木村政昭著、他に東日本大震災後には噴火に関する予言・予想・個人の感想等が多数あり。)
2021年8月(私が見た未来、たつき諒著)

(2)箱根山(Ref. 気象庁Web

箱根大涌谷 噴火想定エリア

12世紀後半から13世紀ごろ

水蒸気噴火3回、火砕物降下。噴火場所は大涌谷付近。

2015(平成27)年

4月26日から地震増加、有感地震多発、5月初め頃からは大涌谷温泉供給施設の噴気が増大。
6月29日から7月1日にかけてごく小規模な噴火が断続的に発生
6月29日07時32分に火山性微動を観測した後、地震活動がさらに活発化し、降灰や空振を観測。また同日の現地調査にて新たな噴気孔(15-1火口)を確認、その後数日でさらに3つの新たな噴気孔を確認。
これ以降、10月頃まではたびたび噴出現象を確認、また地震の多い状態が継続。

余談:火山性群発地震が発生したのはゴールデンウィークの直前、さらに夏休み直前に噴火現象を観測しており、どのエリアまで立ち入り禁止にするのか、火山・防災関係者と観光関係者で相当な議論があったようです。
大涌谷の温泉施設のメンテナンスに入れなくなってしまったため、立ち入り禁止エリアの外側にある周辺のホテルもお風呂のお湯の供給が止まり営業できない状態、南東に3kmほど離れた芦ノ湯はお風呂の温度が急上昇し、熱くて入れなかったそうです。

ここでウンチクをいくつか。
①箱根火山の地熱は、温泉汲み上げと噴気で冷やされうまくバランスしている。このバランスをうまく保たなければ、箱根の観光業はサステナブルではなくなる。
②箱根火山が乗る地下深くの岩盤は、わずかに東方向に傾いている。このため箱根外輪山内部の地下水は、箱根火山中央火口丘群地下の地熱で加熱・温泉成分を添加され、箱根湯本側に流れている。よって、外輪山内部でも仙石原付近では温泉は湧かないし、箱根の三島方面も温泉は湧かない。
③大涌谷は自然の湯沸かし器である。大涌谷周辺は天然温泉の湧出量だけでは足りないため、仙石原から表層水を大涌谷までポンプであげ、大涌谷の蒸気を使って人工的に温泉を作ってます
小田原から見る大涌谷の湯気。
2021年11月現在も、気温が下がるとこんな感じに見えます。

(3)伊豆東部火山群(Ref. 気象庁Web

伊豆東部は火口跡が多数
溶岩流の上の人々(城ヶ崎海岸)
火口の中の人々(大室山)

1989(平成元)年

6月30日から群発地震。
7月13日伊東湾の手石海丘(海底噴火)で、有史初の小規模なマグマ水蒸気噴火(漂着軽石・スコリア)

余談:伊東市民がパニック!
噴火の2週間ほど前から群発地震が発生し、夏休みのかき入れ時期の直前に「市内のどこかが噴火する!?」と伊東市民は大変だったようです。
上記の赤色立体図では、大室山のスコリア丘や一碧湖のマールの他、多数の火口跡が市内各所にて確認できます。「市内が火口だらけ」と理科で習っている(?)伊東市民は、「どこから噴火してもおかしくない!」と思いますよね。
さらに、あの辺りは同じ場所からは噴火しないそうで、そうなるとどこが安全かよくわかりません。
最終的には想定火口域が伊東市の沖合海底となり、海岸からはテレビ局が、海上には海保の船舶が張っていたところ、夜のニュース番組に合わせるように夕方に噴火が発生、まだ明るさが残った時間帯だったので、映像にも綺麗に残すことができました。
この時は、火口が海底で噴火の直接被害が出ることなく収束しましたが、もし陸地のどこかから噴火したらどうなっていたことやら。
海上保安庁撮影

(4)伊豆大島(Ref. 気象庁Web

天気が良ければ、小田原からよく見えます

(これ以前も、噴火多数)

1974(昭和49)年

ごく小規模のマグマ噴火

1986(昭和61)年

中規模のマグマ噴火
溶岩が火口から溢れ、カルデラ床に流下。カルデラ床で割れ目噴火開始。外輪山外側でも割れ目噴火。
全島民1万人島外へ避難(約1ヶ月)。

1987~88(昭和62~63)年

小規模のマグマ噴火

1990(平成2)年

水蒸気噴火

余談:ベランダが観測の特等席
以前、ご近所さんだったこの道の専門家(温泉地学研究所勤務)の方は、「1986年の噴火、小田原からも見えたので遮るもののない久野の台地まで観測しに行った」とのこと。いまならこのマンションのベランダが観測の特等席と言ってました。
これほど頻繁に噴火している火山が、最後の噴火から既に30年以上静穏状態で推移してます。(かえって心配)

■ハザードの確認

最新の公式ハザードマップより、小田原の想定被害を確認します。

(1)富士山

溶岩流

溶岩流が小田原市まで流れてくる可能性が出てきました。想定火口のうち富士山南東斜面から噴出した溶岩が、鮎沢側〜酒匂川に沿って足柄平野まで流れてくる想定です。

三島の楽寿園(=富士山頂から30km程度)の庭園内には、溶岩流が到達した跡が見られますので、距離的には十分届くのかも知れませんが、鮎沢側〜酒匂川の渓谷の狭さと曲がりくねった状況や、溶岩を冷やして固める川の水も相当量あるので、「本当?途中で固まって止まらない?」というのが正直なところです。

いずれにせよ栢山あたりで止まってくれそうなので、Kanatec本社はなんとかなりそうです。

この辺りまで溶岩が来るのかもしれない。

火山灰

小田原の降灰予測は、最大で30〜50cmと壊滅的被害です。これは原発事故の放射性物質汚染と同じく、噴火した時の偏西風の強さと向き、季節など気象条件次第で、木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)様の思し召し次第です。

土石流

噴火後しばらくは、大雨のたびに土石流が発生する恐れがあります。火山灰などの噴出物の量が膨大で、人の力で防ぐのは無理な気がしますので、当面は安全な場所で暮らし、流れ終わるのを待つ感じでしょうか?

(2)箱根山

Ref. 箱根町火山防災マップ

想定火口域並びに被害想定域が大涌谷周辺に限定されてますので、小田原は多分大丈夫そうです。

(3)伊豆東部火山群

Ref. 伊豆東部火山群の伊東市避難計画(H27年3月 伊東市 伊豆東部火山群防災協議会)

火山津波

海に近い火山や海底火山の山体崩壊に伴い発生する津波で、1640年の北海道駒ケ岳や1741年の渡島大島西山、1792年の雲仙岳眉山の「島原大変肥後迷惑」など、過去に大きな被害を出したケースがあります。

伊東市の避難計画を見る限り、海底火山噴火時の小規模な津波想定はありますが、大規模ハザードの想定はないようです。

Kanatec本社ビルのベランダからは、真鶴半島の陰になってしまい、この想定火口域の西側半分を直接見通すことができません。

真鶴半島を越えて見えるケース・・・、例えば熱海の海上花火大会の場合、大玉なら花火の上部が見え、音もかすかに聞こえます。大きめの花火はだいたい200〜300m位上がって開きますので、噴煙がこれ以上高く上がれば観察できると思いますが。。。

ちなみに1989年の海底火山噴火の際は、「水柱が断続的に上がり,その高さは最大で海面から113m」なので、残念ながらこのレベルだと見えないようです。

今から4000年前の大室山噴火はよく見えた
真鶴半島の一番標高が高い辺りに、ちょうど重なってしまう。ベランダからは、川奈崎がギリギリ見える。

(4)伊豆大島

Ref. 伊豆大島火山防災マップ(R3年 東京都大島町)

火山津波

伊豆大島の噴火様式や溶岩の種類、山容的に考え、溶岩が海に流れ込むケースはありますが、大規模な山体崩壊による火山津波のリスクはないと考えます。

■観測体制

(1)富士山

明神ヶ岳の北の稜線の影になり、残念ながらKanatec本社ビルからは直接観測できません。富士山を観察するためには、酒匂川より東に移動する必要があります。

ビオトピアから見た富士山。ここならなら迫り来る溶岩も観測できるベストポイント。(ただしKanatecがここまで辿り着ければ、の話)
余談:富士山の左手に見える矢倉岳(870m)ですが、金時山と同様に箱根の側火山溶岩ドームだと思ってましたが、違うんですね。
この山は箱根山系の仲間ではなく、丹沢や足柄山系の仲間だそうです。
ただし全く火山に関係ないわけではなく、地層深くに貫入したマグマが冷えて固まった後、隆起して侵食を受けた結果、硬い火成岩(深成岩)部分が残ったので特徴のある山容になった、、、ということだそうです。
勉強になりました。

(2)箱根山(大涌谷)

大涌谷付近からの噴気噴煙なら、神山や早雲山越し見えますが、共用通路側なので常時カメラを設置するのは不可能です。

以上、富士山と箱根山大涌谷の場合は、常時観測は無理で、定時/定点観測となりそうです。

(3)伊豆東部火山群、(4)伊豆大島

ベランダに観測機材を設置できますので、常時観測可能です。

【観測機材】

(3)伊豆東部火山群並びに(4)伊豆大島観測向けに、ちょうど使ってない、防水型で屋外設置可能なビデオカメラもあります。撮影映像をWiFiでPCに送ることが可能なので、ライブ中継できる可能性があります。ただし、ズーム機能がないので、肝心の山の様子がどこまでわかるか?